
2025年11月21日
2019年10月に国内で公開され、爆発的人気を呼んだビルマ語映画『Now and Ever』(ビルマ語タイトル『永遠の絆』)が、この8月から各国で上映中だ。日本では11月9日に大阪を皮切りに、名古屋、東京、福岡、群馬でも上映される。監督はクリスティーナーキー(1988生れ)で、夫のザンキー(1980生れ)が脚本、主演、音楽を担当した。二人は在米中に映画製作を学び、2008年に帰国した。2018年製作の初の長編映画は、13の国際映画祭で上映され、二つの国際映画賞を受賞した。本作は三作目にあたる。
大阪会場の観客は大半がミャンマー市民で、既に本国で観たという者もいた。「泣きますよ。ティッシュのご用意を」と司会者。なぜこの時期に6年前の映画上映かという疑問を拭えないまま、美しい画面に目を奪われた。主人公は、父のDVと母の自死によるトラウマを抱えて精神科で治療中の女性を、支える覚悟で結婚。ほどなく自身が不治の病で余命が少ないと知る。妻をこれ以上苦しめるに忍びない彼は、女友達らの協力で一計を案じ、裏切りを装って妻を離婚に導こうとする。妻は懊悩しながら真相を突き止め、夫の最期の日々に寄り添う中でトラウマを溶解させる。二人が訪れたカチン州の壮大な自然、断崖から妻が大河に散骨するロングショットには息を飲む。妻役の女優は、ビルマ語映画『What Happened to the Wolf?』(2021)(本便り25年7月30日参照)の主役の一人でもある。
2011年の「民政移管」後も、低予算の大衆作が溢れる旧態依然の映画界に、彼ら少数の若手映画人が、芸術性を織り込んだ上質の作品を投じ、旋風を起こしてきた。ザンキーは10代からNLD(国民民主連盟)の熱烈な支持者でもある。21年の「国軍」による違法な政権簒奪直後の4月、夫妻はバンコクへ出発直前にヤンゴン国際空港で拘束され、未成年の息子や助手とともに、約2か月間自宅軟禁された。釈放後は国外に住む。
10月末から映画界が揺れている。26日に、12月28日投票の「選挙」用プロパガンダ映画の出演俳優が発表された。早速タイ在住ミャンマー市民が、公開中の「選挙」協力俳優の主演映画や、「国軍」寄りと目されるバンドの公演をボイコットした。29日から30日にかけ、SNSで「選挙」協力映画人を批判した監督、俳優らの逮捕が相次いだ。中には、投稿に「いいね」しただけで、逮捕された監督もいる。 31日、全芸能人に、「選挙」協力せよ、拒否すれば断罪、出国は禁止との宣告が出た。11月8日、歌手の動員も始まった。19日の時点で、上記のような「選挙妨害」罪で逮捕された者は、100名近くにのぼる。
「選挙」批判はミャンマー市民に留まらない。11月1日、次期アセアン議長国フィリピンの大統領が、「選挙」時に監視団を派遣しないと述べ、5日、ニュージーランド政府は、「選挙」は見せかけの‘Sham Election’だと述べ、8日、フランス政府は「選挙」を認めないと宣言した。同日発表の市民団体の調査では、国民の98%が「選挙」を信用していないという。12日、国連人権高等弁務官は、空爆下で自由・公正な選挙は不可能だと述べた。
「国軍」は国際世論もなんのその、「選挙」による「新政府」造りに邁進中だ。空虚なプロパガンダも、人道犯罪の空爆も、その突破口というわけか。NUG(国民統一政府)は14日、10月中の空爆が250回にのぼり、子供38名を含む市民185名が死亡したと発表した。震災の復旧も進まない中、首都の国会議事堂は膨大な作業員を投じて復旧工事の真最中だ。
15日、国境なき記者団は、ドキュメンタリー映画監督シンデーウィー(1973生れ)に「報道の自由」賞を授与した。彼女は23年10月に逮捕されて獄中にある。90年代半ばに会った彼女は、まだ短編小説を書いていた。鋭い舌鋒で、ビルマ族仏教文化至上主義の社会を批判したのには、思わず快哉を叫んでしまったものだ。獄中でしぶとく生き延びてほしい。
南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻修了。大阪大学名誉教授。ビルマ文学研究者・翻訳者。