
2025年9月26日
猛暑の8月29日から10日間、第21回大阪アジアン映画祭が開催された。「まだポピュラーになっていなくても、今年、特に注視しておきたい潮流、才能」を厳選した特別注視部門に、ビルマ語映画が入っていた。本邦初上映の「MA-沈黙の叫び」(2024年/ミャンマー、韓国、シンガポール、フランス、ノルウェー、カタール合作/74分/監督ティーモーナイン)だ。すでに、昨秋の釜山国際映画祭でニューカレンツ賞を受賞している。ティーモーナイン監督の前作「The Monk」(2014年/ミャンマー、チェコスロバキア合作)も、ルーマニアのアノニマル国際独立映画祭プレミアム特別賞はじめ複数の受賞に輝いた。現在海外を拠点とする監督は、1971年マンダレー地域ミンヂャン郡に生まれ、詩人でもある。タイトル中のMAは、ビルマ語で「女性」を意味する。念のため監督に確認したが、その通りらしい。
作品は18歳の女性労働者の視点で、都市の中国系縫製工場の罷業の顛末を描く。1962年1988年2021年の「国軍」の権力簒奪時の映像が流れ、歴史の延長線上に現在を位置づけた上で、女たちの生活の細部が活写される。「闇の中で、抜け出そうとしているのか、さらに闇に入っているのか」と独白し、「国軍」に焼き討ちされた故郷を想い、「残るのは沈黙だけ。沈黙が私たちの顔を見つめている」と嘆く主人公。その周りで、「国軍」幹部宅に勤務して虐待されるルームメイト、2か月の給料遅配に抗議して仲間を組織する同僚、上司に自分の身体と仲間の情報を売る同僚など、顔と名前を持った女たちが脇を固める。
一方、現場監督、ガードマン、スト破りのやくざ者などの男たちには、顔も名前もない。命令し、怒鳴り、威嚇し、虐待する彼らは一様に、首から上が撮影されない。唯一顔と名前を持つのは、女子寮の家主の夫と思しきアル中男だ。彼は88年民主化闘争の生き残りだった。仲間は殺され、その背中一面には拷問の傷跡が残る。「傷は癒えても心は癒えない。酒なしではいられない」と彼は告白し、罷業継続を逡巡する主人公に、古い木箱から書物を取り出して貸し与える。書物をむさぼり読んだ彼女は、闘争現場に戻る。ラスト近く、血の海に横たわる女たちに叩きつける雨と、翌朝の寮の無人の室内が映し出され、「今もミャンマーでは女性が権利を求めて闘っている。その中には武装組織に入る者がいる」というテロップが現れ、スタッフ、キャスト名が続く。沈黙の中で叫びを発した女たちの勇気ある闘いは、ビルマ語映画史上に名を残すだろう。9月22日、ヤンゴン地域ラインターヤー郡区の中国系縫製工場の一部が、発注激減や経営難で閉鎖の準備中だと報じられた。
顔をなくした男たちには頭脳もない。それは「国軍」を彷彿とさせる。彼らは12月の「選挙」実施に向け、執拗な空爆で失地回復を目指す。9月17日から翌日にかけ、タニンダーイー地域ダウェー県4郡に50発以上の爆弾が落とされた。18日に総司令官が空路ダウェー市に入り、厳重な警戒の中、市立ホール開会式出席、パゴダ参拝、コンピュータ大学視察を果たした。彼はまた17日、「国軍」幹部389名に、退役して傘下のUSDP(連邦団結発展党)候補者への就任を命じ、同党の一部から反発を招いた。中国とロシアの後ろ盾を得てなお、恐怖に駆られる彼は、妻ともども厄除け祈願に余念がない。なにしろ、今年1月から9月15日までの間に「国軍」兵士2000名が投降したと市民グループが16日に報じれば、独立系メディアも、22日の「国軍」死者数88名、革命軍死者数8名と報じる有様だ。
一方5日、アウンサンスーチー心臓病悪化の情報が流れた。専門医の診察も認められないという。早速全世界で抗議の声が上がった。7日に「国軍」報道官はそれを否定。8月末からの総司令官訪中の成果を貶めるために流された偽情報だと述べたが、彼女の健康状態についての言及は避けた。こればかりは、正真正銘の偽情報であってほしい。
南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻修了。大阪大学名誉教授。ビルマ文学研究者・翻訳者。