
2025年7月30日
女たちの愛と死を描くビルマ語映画『What happened to the Wolf?』(脚本監督ナヂー119分)が、世界各地で上映中だ。13日の大阪城東区民ホールも、若いビルマ人で溢れた。
映画はコロナ禍中の2020年に製作され、21年2月1日の「クーデター」直前に完成した。主役の一人は2月から13か月間投獄され、4月にいま一人の主役と監督が潜伏した。初公開は同年9月のドイツ・オルデンブルグ映画祭だ。獄中の主役が優秀演技賞のシーモア・カッセル賞を獲得した。さらに同年東チモール・ディリ映画祭で、22年アメリカ・ホブノッベン映画祭で、それは最優秀長編物語賞を獲得した。
「死は人生の一部」と語る監督は、死に至る病を抱えた二人を病院で遭遇させる。自由を愛する反骨少女ウェーは、仕事一筋で抑制的な実業家モウに日常のささやかな楽しみの数々を教える。モウは、子供時代に母の自死に遭って以来父を憎悪し、父でなく夫に事業を譲るため離婚する。既に両親を亡くしているウェーは、唯一の兄の事故死で、親戚との同居を迫られる。監督は彼らにヤンゴンの町を小型トラックで駆け抜けさせ、田園に放って、死出の旅に向かわせる。生と死の共存する病院は淡い色調で、田園は空の青と大地の緑に溢れ、ウェーの最期は日没前の黄金色が包む。監督はまたモウの夫に、「僕らは長年鬱々としてきた」と語らせ、セレブの懊悩を垣間見せる。彼らの豪邸内部は墓穴のように暗い。あの国のセレブは、「国軍」と切っても切れぬ関係にある。
場面転換時に作家、詩人、音楽家らの箴言が浮かんでは消え、BGMはウェーこだわりの90年代から2000年代人気ソングが満載だ。撮影前の題は、「消えてはいない。探し廻らないで。私たちは一生分の時間が与えられている」と長かった。現題名は、旅の途上幽霊の名所を訪れた二人の会話から採られた。幽霊を待つ間車の荷台で、ウェーは懐中電灯で手影絵芝居を演じて見せる。「昔々オオカミは、孔雀の美しい羽根が欲しくなりました。オオカミが孔雀にとびかかると、孔雀は逃げました」「で、オオカミに何が起きたの?」「何も、、、そこ、何か通った!」怪しい影が画面を横切る。会場がどっと沸いた。
孔雀は、アウンサンスーチーの政党NLD(国民民主連盟)の象徴だ。孔雀を羨み、襲いかかるオオカミから連想されるのは、「国軍」をおいて他にあるまい。以前から「クーデター」計画はあったと聞く。劇中譚は「クーデター」前夜の不穏をも透視させる。
監督の前作『ミー(女性名)』(2019)で主人公の喫煙が批判されたが、この映画の二人もさかんに煙草をくゆらす。2012年の印刷物検閲解除後も、映画の検閲は続いた。ガールズラブ、喫煙、セレブの内実、劇中譚から、作品が21年の検閲を通る可能性は極めて低かった。作品が国外に持ち出されたのは、むしろ僥倖だった。国内上映の日が待たれる。
震災の復興は進まない。余震は続き、それ以上の頻度で空爆が続く。17日のザガイン地域ウェッレッ郡への空爆では、20名が死亡した。同地域やバゴウ地域では殺戮や焼き討ちも続く。季節柄、豪雨による増水や浸水も多い。道路崩落で通行も停滞する。さらに24日、ヤンゴンやモン州で竜巻被害が出た。デング熱も各地で拡大している。一方政治囚も標的にする方針が出たようで、虐待が増加中だ。9日にマンダレーのオウポウ刑務所で、大腸破裂の政治囚が治療放置で死亡した。25歳の女性政治囚はヤンゴンの病院入院中、インセイン刑務所に戻され、20日に死亡した。21日カレン州パアン刑務所では、看守30名による暴行で政治囚が死亡し、死因は心臓病と報じられた。徴兵目的の若者拉致も続くが、武器持参で投降する新兵も後を絶たない。それを上回るのが「国軍」死者数だ。そんな中でオオカミたちは、年末「総選挙」実施のため躍起になっている。彼らが国際社会からの震災被災者支援金を「選挙」に流用している疑惑も生じている。
南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻修了。大阪大学名誉教授。ビルマ文学研究者・翻訳者。