「1027」作戦のあとさき

2023年12月25日

 「1027」作戦(便り2023年11月20日参照)以来、ビルマ語情報から目が離せない。それらによると、12月15日現在北部三兄弟同盟はじめ革命勢力が占拠した「国軍」基地は422か所、24日現在彼らが制圧した都市は24市、「国軍」側の投降者や死者も多数にのぼる。北西部チン州ではチン族革命勢力が行政機関を結成し、州憲法を作成中だという。追い詰められた「国軍」の空爆も後を絶たない。住民の犠牲者も少なくない。国内避避難民は260万に及び、ヤンゴンやマンダレーでは爆発が頻発し、首都包囲網はさらにせばまり続ける。
 さて、今年8月に中国で映画「No More Bets」が大ヒットして、興行収入第三位となった。金儲け話に乗せられた中国人男女が、東南アジア某国へ旅に出て、オンライン詐欺の世界に囚われ、苦労の末脱出する物語だ。ミャンマー「軍事政権」はこの映画に抗議を表明した。たしかに映画の風景の中の看板の文字は、綴りが不正確だがビルマ文字に見える。オンライン詐欺犠牲者に中国人が多いことから、中国と「国軍」トップとの会談は幾度となく持たれた。「国軍」側は何度か現場を手入れしたが、中国側は満足できなかったようだ。
 詐欺の本拠の一つが、コウカン自治区の首都ラウカインだ。コウカン族は中国系で、9割が中国語を母語とする。同地域は1989年までCPB(ビルマ共産党)支配下にあった。同党「崩壊」後、コウカン族の元党員が当時の軍事政権と停戦し、武器携行のまま自治が許された。2008年憲法で同地域は自治区となり、2010年選挙で「国軍」の政党・連邦団結発展党員が議員となった。CPBの流れを汲むMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)は、2009年に撤退を余儀なくされていた。
 『ミャンマー・ナウ』によれば、今年10月にラウカイン市のホテルで、オンライン詐欺被害者を装った中国の公安2名が殺された。中国はホテル所有者一族を指名手配した。所有者は、2010年から15年まで連邦団結発展党議員兼同自治区副知事を務めた男性だった。11月に一族はラウカイン市内で逮捕され、男性は自決し、一族は中国へ送られた。「国軍」系メディアは、一族が中国籍だったと発表した。外国人が議員や行政機関幹部を務めることは、2008年憲法にも違反する。「国軍」はアウンサンスーチー政界進出対策として、外国人と結婚した国民の大統領就任を妨げる憲法条項作成に腐心したが、中国人の要職就任は見逃した。入管や選管の責任はもとより、解党処分にも値する行為だと噂される。
 現在ラウカイン市は北部三兄弟同盟のMNDAAが包囲する。カジノや詐欺で儲けた富豪たちは、「国軍」のヘリで首都ネーピードーへ脱出した。12月12日、中国は同同盟と「国軍」を協議させ、「停戦」を宣言させた。12月末まで同盟はラウカイン突入を見合わせ、市内の「国軍」関係者の退去が認められた。同日、北部三兄弟同盟は声明で、「国民の皆さんのご心配には及びません。皆さんと手を携え、やるべきことをやっていきます」と述べた。
 ゆえに各地で、各種武装組織と「国軍」の戦闘は継続中だ。小さな武装組織の一つBPLA(ビルマ人民解放軍)を率いるのは、詩人M4(30歳)(『ビルマ文学の風景』p323-324参照)だ。2021年2月の街頭デモ以来、彼は姿を消し、ジャングルで武装組織を結成して、KNLA(カレン民族解放軍)や三兄弟同盟のAA(アラカン軍)と行動をともにする。「三兄弟同盟には感謝しています。1027作戦はシャン州北部にとどまりません」と、彼はRFA(Radio Free Asia)のインタビューで答えた。NUG(民族統一政府)防衛大臣も詩人だ。過日も、演説中に自作の詩を朗読していた。クリスマスの25日、女性詩人S(69歳)が自作の詩に曲をつけて歌う姿をYouTubeで送ってくれた。戦闘期が終わり、再建期に入れば、たくさんの詩集が出版されることだろう。

 


 

南田 みどり(みなみだ みどり)=1948年兵庫県に生まれる。大阪外国語大学外国語研究科南アジア語学専攻修了。大阪大学名誉教授。同外国語学部非常勤講師としてビルマ文学講義も担当中。