コロナパンデミック問題について

林 利光

 
食事の工夫あれこれ

2021524

私たちが心身ともに健康に生きていくためには、毎日の食事を楽しみながら、必要な栄養素を過不足なく摂取する必要があります。ところが、からだに必要な栄養素をすべて含む食品はありません。含まれる栄養素は食品ごとに異なります。そこで、入手可能な様々な食品を組み合わせるように工夫すれば、必要な栄養素を過不足なく摂取することができるようになります。

食品中の主な栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)は、消化管で分解・吸収された後、血液によって全身の細胞に供給されます。また、様々な生命活動は「アデノシン三リン酸(ATP)」と言われるエネルギー物質の働きによるものです。ATPの大半は、細胞内の「ミトコンドリア」と呼ばれる小器官において、血液によって運ばれてきた栄養素の分解産物から作り出されます。

生活がストレスフルになると、交感神経が緊張し、血流が抑制される結果、低酸素・低体温になります。すると、ミトコンドリアの機能が低下するとともに、免疫力も低下します。そこで必要になるのが、生活のリズムを整えながら、積極的に体を温め、血流を良くすることです。入浴などによる温熱刺激、意識的な深呼吸、日光浴、野菜や果物の摂取などはミトコンドリアの機能や免疫力を高める効果があります。筋肉を使う適度な運動もからだを温めるのに有効です。

なお、タンパク質は過剰に摂取しても、分解産物(アミノ酸)は貯蔵されません。それゆえ、炭水化物や脂質などの摂取量が不足すると、筋肉中のアミノ酸が分解され、エネルギー源として利用されてしまうことになります。

 一方、腸内細菌のバランスを整える食生活は免疫力を高める上で重要です。すなわち、腸内細菌の餌となる穀類、豆類、海藻やきのこなど種々の食物繊維を含む食材、抗酸化力の強い色の濃い野菜や果物の他、乳酸菌、麹菌などを活用してつくった発酵食品を摂取することが大切です。

ちなみに、我が国には、和食という伝統的な食文化がありますが、ごはんを主食に、多様なおかずを組み合わせて食べる様式(一汁三菜)が和食の基本的な食事スタイルです。各地に多様な食材があり、昆布、鰹節、椎茸などの「うま味成分」が含まれている出汁の利用は、様々な素材の味わいを活かす「和食」の特徴の一つです。新型コロナウイルス感染者数が欧米やインド、ブラジルに比べて相対的に少なかったのは、食文化の違いが影響しているのかもしれません。

 ところで、食べ過ぎると、血液が胃腸に集中し、熱を生み出す筋肉や脳、肝臓などに血液が十分送られなくなります。そうすると、白血球の免疫力も低下することになります。したがって、腹八分目を心がけるようにすることが必要です。また、コロナ禍下では、経済的・精神的ストレスが大きい状況ですが、それだからこそ身近な食材で手軽に入手できるものを活用した食事を工夫してみるべきでしょう。なお、個々の食材の栄養成分や調理法などの情報は栄養学や料理関連の図書やインターネット検索から入手して参考にすると良いでしょう。

 ワクチン接種をめぐる問題が連日報道されていますが、免疫力が低下していると抗体をつくる効果は弱い上、副反応も懸念されます。また、変異株の感染拡大が深刻な地域や都市封鎖が継続されているところも多いので、現時点で、国家間の移動制限の解除の見通しを予測することは困難です。したがって、食生活の工夫はとても重要です。

 

体力と免疫力をつける

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私たちのからだには「自然治癒力(治る力、癒す力)」がそなわっています。「けが」や「やけど」など、からだに傷ができた時にそれを治そうとする「創傷治癒力(組織の再生)」や細菌やウイルスなどの病原体を含む様々な異物が体内に入り込むのを防いだり排除したりする「免疫力」などです。

私たちの周りには、種々の病原体や異物が存在しているので、免疫力は、特に重要です。前回紹介した「腸管粘膜」や「気道粘膜」の免疫系細胞による「自然免疫細胞の活性化」や「抗体の一種である分泌型IgAの産生」などの速やかな働きは、ヒトからヒトに感染拡大中に「遺伝子変異が起こる」ウイルスに対しては極めて効果的です。それゆえ、食事の際に難消化性食物繊維を摂取してこの免疫力をパワーアップさせる意義は大きいと言えます。

一方、食物成分(5大栄養素)を摂取することは、私たちのからだの細胞や組織を構成している生体分子(タンパク質、糖質、脂質、核酸など)の再生やエネルギー源として不可欠です。また、血液中のヘモグロビン、白血球、血小板などや、消化管から分泌される消化酵素やホルモンのほか中和抗体や情報伝達物質類の合成にも必須です。

他方、腸管には消化・吸収と排泄以外に神経系や免疫系の乱れを回復させる機能がありますが、この機能の維持に腸内細菌が重要な役割を果たしていることが判明しています。中でも善玉菌は、消化酵素で分解されない食物繊維を分解して「短鎖脂肪酸」をつくりだします。この分解産物は「経口免疫寛容」と呼ばれる機能を強化するので、通常、自分自身の組織や細胞に対して過剰な免疫反応が起こる「自己免疫疾患」の発症を抑えることが報告されています。したがって、「プロバイオティクス(発酵菌、発酵乳、乳酸菌飲料など)」や「プレバイオティクス(食物繊維)」を積極的に摂取することも腸内フローラの乱れを改善する上でとても有用です。

なお、自然治癒力は「神経系-免疫系-内分泌系」のネットワークにより調節されていますが、このネットワークは、脳内(視床下部)にある時計遺伝子と末梢組織内の個々の時計遺伝子のコンビネーションによってコントロールされています。また、私たちのからだには、周りの環境が変化した場合に、一定の状態に戻そうとする機能「恒常性維持機構(homeostasis)」がありますが、それぞれの生理現象は周期的に変動しています(生体リズム)。この生体リズムは、体内にある生物時計中の時計遺伝子の働きにより刻まれています。ちなみに、生体リズムの乱れは「朝の光」と「摂食」によりリセットされることが分かっています。

したがって、自然治癒力に目を向け、「多彩な食材の活用」と「適度の運動・休養」によって体力をつけるようにしたいものです。

 

ワクチンで大丈夫?

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ワクチン接種がコロナ禍に対する唯一の有効手段のようにいわれていますが、本当にそうでしょうか? ワクチン接種の目的は、体内でウイルスに対する中和抗体(ウイルスが細胞に結合するのを阻止する抗体)を作らせて感染を予防することです。私たちに馴染み深いワクチンとしては、幼児期に接種される麻疹や水疱瘡のワクチン(生きたウイルスを弱毒化した「生ワクチン」)や毎年流行するインフルエンザのワクチン(ウイルスの感染力をなくした「不活化ワクチン」)などがあります。

現在、世界的に注目されているのはウイルスの遺伝子情報に基づいて作られた新しいタイプの「メッセンジャー mRNAワクチン」です。これは、コロナウイルスに特有な「スパイクタンパク質」をつくるmRNAを遺伝子工学的に合成したもので、接種後に体内で作りだされるスパイクタンパク質に対する抗体(主としてIgG)の産生を期待したものです。ちなみに、mRNAワクチンの開発技術は、SARSのパンデミックの際に、米国や英国の大手製薬会社が既に導入していたので、新型コロナウイルスのゲノム情報が公開後に短期間で開発・承認が可能になりました。我が国では、ワクチン開発の体制が不備なので海外に依存せざるを得ない状況です。

通常、抗体はワクチン接種1〜2週間後に作られますが、1回の接種では再感染時に十分な量が作られないので、2回以上接種する必要があります。また、ワクチンの効果を高める目的でアジュバントと呼ばれる物質が一緒に投与されます。ただし、様々なストレスを受けている人や摂取する栄養成分のバランスが悪い人では免疫機能が低下しているのでワクチンの効果は弱いと推測されます。さらに、ワクチンとアジュバントは体内には存在しない「異物」です。そのため、接種部位の腫れや痛みのほか、頭痛や発熱、倦怠感などの副反応が起きます。また、アナフィラキシーと呼ばれるアレルギー過敏反応が起こることもあります。

なお、最近感染拡大している変異株は、スパイクタンパク質の構造が変化したものですが、その中には、感染力が強い上に、ワクチンが効きにくくなるものも報告されています。

ところで、私たちのからだには、様々な機能を持つ細胞がありますが、不要になると分解され、再生されます。再生細胞の合成には分解産物が再利用されるほか、大半は摂取した食材の栄養成分が利用されるので、食事は重要です。ちなみに、種々の食材に含まれている難消化性食物繊維を摂取すると、腸管粘膜や気道粘膜に存在しているマクロファージや樹状細胞などが活性化されるとともに、分泌型の抗体(IgA)が速やかに産生されることが報告されています。これらの知見は、難消化性食物繊維の摂取が再感染予防にも有用であることを示しています。

とはいえ、コロナ禍にあって、医療従事者や長距離運送業者など長時間労働をせざるを得ない人たちや低所得者のように、時差出勤や時短の要請があっても、十分な食事も摂れない厳しい現実があるのも事実です。したがって、個々人がもっと精神的にゆとりを持てるような生活を可能にするための社会的配慮と支援が強く求められます。

今こそ、ワクチンに過剰な期待を抱かず、日常の食生活を見直すとともに、ストレスフルな生活全体に目を向けてみる必要があるのではないでしょうか?

 

感染症とのたたかいの長い歴史

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感染症のパンデミックは、ウイルスや細菌が広い地域で多数の人々に感染し、最悪、死に至らせます。
このようなパンデミックは、国家間の戦争の歴史と密接に関連しています。これまでに、パンデミックを引き起こした感染症としては、細菌による「ペスト、コレラ、赤痢、チフス、梅毒、結核」やウイルスによる「天然痘、麻疹、エイズ、エボラ出血熱、インフルエンザ、新型コロナ」などがあります。また、蚊が媒介するマラリア原虫による「マラリア」が知られています。
1918年に世界中に感染拡大したインフルエンザ(スペイン風邪)は全世界で4,000万〜5,000万人もの死者を出しましたが、2009年に大流行した新型豚インフルエンザは、ブタ、トリ、ヒト由来の遺伝子をもつウルスがブタに同時感染して出現したウイルスがパンデミックを引き起こしたものでした。なお、天然痘ウイルスや麻疹ウイルスのように感染拡大中に遺伝子変異が起らないウイルスに対しては、ワクチン接種は効果的ですが、変異株が出現するウイルス感染症に対してはあまり期待できません。
ところで、もとは特定の地域で流行していたものが、地域間の紛争や人的交流などにより、次第に感染拡大し、パンデミックに至った感染症があります。例えば、黒死病と呼ばれていたペストはカザフスタン周辺に生息するネズミなどの感染症でした。ペストはネズミの血を吸って感染したノミがヒトを刺咬する事で感染することが判明していますが、感染したイタリアの商人によってシチリア島に持ち込まれ、そこからヨーロッパ各地に広がったとされています。また、コレラはもともと、ベンガルのデルタ地域に古くから存在した風土病でしたが、19世紀になってからインドのかなり広い地域で流行後、瞬く間に全世界に感染拡大したと言われています。一方、SARSおよび新型コロナは、それぞれ中国の広東省および湖北省に生息するコーモリからヒトに感染してパンデミックになったことが報告されています。
これまで繰り返し発生した感染症のパンデミックにより、多くの人命が失われ、政治・経済システムの破綻が明白になったことから、感染症の発症要因の科学的な解明とそれらに対する治療・予防法の確立は重要な検討課題となってきました。電子顕微鏡の実用化、治療薬やIT技術を用いた医療機器による診断・治療法の開発、人工知能(AI)の活用によるビッグデータの解析などが実現しましたが、新型コロナなど、まだ効果的な治療・予防法が確立していない感染症もあります。
人類史において、感染症のパンデミックは同時的に多数の人々に健康被害をもたらし、甚大な経済的・精神的苦痛を与えたという点で「戦争」と共通しています。また、両者は、それまでの社会制度や医療体制の弱点をあぶりだし、社会進歩の歴史に多大な影響を与えてきました。今後、コロナ禍で露呈したグローバリゼーションを優先する新自由主義的政策の問題点と見直しが求められているのではないでしょうか。

 

新型コロナって何?

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新型コロナの感染拡大の第4波がおしよせています。馴れと諦めに加えて政府の対応策のあいまいさもあってガマンも限界、というところですが、感染力の強い変異株も出てきているので、軽視は禁物です。あらためて、新型コロナウイルスの特徴を整理してみましょう。
 新型コロナウイルスは、2002年に中国広東省で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因ウイルスの仲間(RNAウイルスに分類されるコロナウイルス)です。コロナウイルスに共通している特徴的な構造は、子孫ウイルスの複製(増殖)に必要な遺伝情報が組み込まれた遺伝子(RNA)を包みこんだ入れものの外側にエンベロープと呼ばれる膜がおおっており、スパイクタンパク質という突起が突き出ている点です。この突起が王冠(コロナ)のように見えることから「コロナウイルス」と名付けられました。なお、ウイルスは単独では増えることはできません。ウイルスは他の生物に感染し、細胞内の成分を利用して増殖する(ウイルス自身のコピーをつくる)ことになります。増殖したウイルスは細胞外へ飛び出し、ほかの細胞に侵入してさらに増殖を続けます。また、唾液の飛沫などと一緒に体外へ出て、別のヒトに感染します。
 第4波の感染拡大で急増しているのは「変異型ウイルス」ですが、これはウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の一部が変異しているものです。この変異によってヒトの細胞表面にある受容体(ACE2)への結合が強くなるため、感染力が増加すると言われています。さらに、変異株の種類数も増えてきており、従来株よりも感染しやすく、重症化しやすいものも認められています。
 ウイルスがヒトに感染すると、からだにそなわっている免疫機能が働き始め、感染したウイルスを「異物」と認識・排除するために免疫反応が起こります。その結果、「発熱、炎症」などの様々な症状が現れてきます。新型コロナウイルス感染症の主な症状としては、発熱、肺炎、呼吸困難、嗅覚・味覚障害、血栓症などの合併症が報告されています。また、感染しても発熱などの軽症で回復する人や無症状の人が多いことも判明しています。さらに、回復後も長期間にわたって「抜け毛、ブレインフォグ(脳の霧)、めまい、呼吸困難、嗅覚障害、倦怠感など」の後遺症が続く人がいることが分かってきました。
 基本的な感染予防対策は、変異株であっても、3密を避け、マスクの着用、手洗いに加えて、免疫力が低下しないように、「食事による栄養成分の摂取、休養、適度の運動」を行うように心がけることです。

 

 

 

林 利光(はやし としみつ)
1945年に中国(満州)で生まれる。1975年京都大学大学院薬学研究科博士課程修了。1985~86年、国際協力事業団専門家としてパラグァイのグァラニ―インディオの伝承薬の調査研究プロジェクトに参加。2011年、富山大学名誉教授、中部大学生命健康科学部客員教授。
ウイルス感染症のパンデミックと国民生活 食によるコロナ対策の科学的エビデンス』(本の泉社)